曲がる・歩けるから骨折ではない?柔道整復師が教えるケガの誤解
6月某日の23時。雨降りの坂道ダッシュの繰り返しによって、足に力が入らなくなった私はスタートでよろけ、街路樹に手をぶつけました。左手薬指は腫れ、完全に曲がらない状態。私の様に手を使う仕事の方であれば翌日には整形外科を受診した方が良いでしょう。でも私は行く必要がありません。なぜならば、私は骨折や脱臼、捻挫(靭帯損傷)、打撲、筋挫傷(肉離れ)に関しては医師の指示を仰ぐことなく処置が許されている柔道整復師だからです。誤解されがちな私の資格とケガを柔道整復師が診る利点、私の今日の見解についてです。

大前提に私は柔道整復師
私の持っている国家資格は、骨折と脱臼、捻挫(靭帯損傷含む)や打撲、筋挫傷(肉離れなど)に関しては、医師以外では唯一、それを自らで判断して施術をすることが法的に認められている資格です。ですが、骨折と脱臼は処置後に医師の診察が必須になります。ここで、誤解されがちなのは「レントゲンが先(医師の診察が先)ではない」という点です。「骨が折れているならばそれを復してから、関節が外れているならば、それを復してから、医師に診せなさい」という資格です。稀に、当院でエコー検査を行うことに関して「医師ではないのに使って良いのですか?」と心配されることがありますが、こういった事実背景があります。


待っているだけでケガを診るスキルは得られない
「なぜ柔道整復師(整骨院)の多くはマッサージばかりしているのに、あなたにそんなことが出来るの?」
整骨院慣れしている方々は思うでしょう。その疑問を晴らすには時代背景をご理解頂く以外にありません。私が柔道整復師になった2006年、時代背景的には既に整形外科も多く存在していたことから、ケガをしたらレントゲンが撮れる整形外科に行く方が多くなっていました。とはいえ、それよりも前まではケガをしたら接骨院・骨接ぎに行くことが一般的だった時代があり、柔道整復師の中ではまだまだ以下のような考えが一般的でした。
「骨折や脱臼などのケガを診るスキルがない柔道整復師は論外」
そんな背景から、私もケガを診るために自分で探した整形外科に就職をしました。小規模なクリニックでしたが、一日に骨折の患者様が多い日では10人弱ほどは来たと記憶しています。そこで学んだのは以下の2つです。
①レントゲン検査前に視診や触診(骨折と特異的な所見の有無チェック)を行い、直後にレントゲン画像と医師の診断のフィードバックが毎日受けられることで、(自分が診て良い状態なのかの)判断が磨かれたこと。
➁上司の手ほどきとレントゲン画像を見ながら、骨折の骨を復したり、脱臼の関節を復す。その後にギプスを巻いたり、固定具を製作し、固定具を外した後の後療法までの全工程を診ることが出来たこと。
単純に私が「経験出来る環境を選び」、「手ほどきをして下さった方がいて」「それをさせて下さる患者様がいた」から私は出来るだけの話で、逆も然りだと考えます。もちろん、一貫して整形外科勤務の柔道整復師は私よりも遥か上のレベルでケガの処置が出来ると思います。
誰でも分かる骨折は救急病院以外では稀
「歩けるから骨折ではない」
「曲がるから骨は大丈夫」
「レントゲンで骨折の全てが分かる」
これらは敢えて強めに述べると
「そんなのは完全な誤解です」
セールストークに誤解されがちなので少し専門的に述べます。大前提に骨折の定義は、
「骨組織の連続性が断たれた状態」
です。骨には骨膜という膜があり、痛みを感じる感覚神経は(骨では)骨膜にのみ存在しています。つまり、骨が明らかに折れてなどいなくても、骨膜に傷が入れば「骨折」であり、痛みも骨折相応に出ます。次に、骨と骨の繋ぎ目(電車で例えれば車両と車両の連結部)を関節と言いますが、骨折の部分(骨折線)が関節に「かかっていたら」曲げ伸ばしなどの関節の動きに支障を来す可能性が高くなります。逆に、関節に掛からない骨の中央部分である「骨幹部」の骨折であれば、関節に関係ないので、曲げ伸ばしが可能な可能性が高くなります。力学的に考えても、体重の掛かりが少ない骨であれば例え骨折していても歩けるし、人体は関節しか曲がらないので、関節に骨折がかかっていなければ曲げ伸ばしも出来ます。また、レントゲンは照射量や角度によって見える骨折、見えない骨折があります。だから、私たちはもちろん、医師の専門書にも通常はレントゲンなどの画像検査のみで診断するべきではない旨が記載されています。触診、視診などの裏付けにレントゲン画像を診て初めて、判断可能な骨折は多くの方が思っている以上に多くあります。
「骨を戻す」と「治る」は別
機会があれば、使い終えた割り箸を一度折ってみて下さい。割り箸の断端は、力のかかり方によって様々な形状(斜め、真横、縦など)を呈すでしょう。柔道整復師はこの断端を合わせることが仕事です。でも、そこにボンドを付けたり、ビスで留めることは出来ません。つまり、「断端を合わせても、手を離したら折れた状態に戻ってしまう可能性がある訳」です。だから、ギプスやシーネといった固定装具を用いて、断端がくっ付いている時間を増やすことが必要不可欠です。その結果として、糊のような仮の骨(仮骨)が出来てきて、骨癒合し、治る。この仮骨形成を促すために「固定」をする訳です。
「極論、骨折は待つしかないんですね??」
このように伺うこともありますが、その通りです。だから、「どこを目指すのか??」の現実的な判断をあなたご自身で行う必要があります。
①機能的にも外見的にも後遺症がなく治る。
➁機能的には後遺症がなく治る。
➂機能的な後遺症が残る。
➃外形的にも機能的にも後遺症が残る。
①~➃の何を掴むかは、あなたと私の選択と相応の行動次第です。個人的に、ご本人が承知のうえで(最終的な皺寄せはご家族に及ぶことが多いのでご家族がいる方はご家族も)取捨選択した結果が➂や➃になろうとも、私に不満などある訳がありません。でも、起こり得る現実はご理解頂いておく必要があります。なぜなら、これは一度しかないあなたご自身の人生の話であって、空想や他人の話ではないからです。
「恥ずかしいし、邪魔だから固定を外しました。で、ケガはいつ元通りに治るのでしょうか?」
恐らく、いわゆる加齢変化による症状との区別がつかないが故の行動だと想像します。しかし、「慢性痛の血行不良」と「急性外傷の組織損傷」は、全くの別物です。外傷において不適切な時期に固定を外すということは、もし仮に①(後遺症なし)を目指されていたとしても、この時点で既に①のルートは閉ざされたとご理解いただかざるを得ません。事実、医学的には「偽関節」「過剰仮骨形成」「遷延治癒」といった深刻な後遺症のリスクが跳ね上がります。
誰でも出来る「固定」とプロの「固定」の違い
骨の断端を近接させる角度(骨の断端が離開しない角度)、関節が再び外れない角度、傷めた靭帯に過度なテンションが掛からない角度・・・固定肢位といって、この角度が適当だと、適当にくっついてしまいます。だから、その角度はあなたの将来を左右する可能性があります。だから、専門知識が必要です。また、固定範囲も同様です。「折れている部分だけを抑えても」筋肉がその骨を引っ張ってしまう可能性がある部分の場合には、その筋肉を考慮して広範囲に抑えなくては意味がありません。更に、固定材料も重要です。柔道整復師には「伸縮性の皆無な綿包帯」を使いこなすことが求められます。なぜなら、受傷直後や当日は時間経過とともに腫れが増す可能性があります。その際に伸縮性包帯は(ゴムで伸縮する訳なので)巻き方によって緊縛による壊死の可能性があるからです。綿包帯は慣れていない人が巻くと「グダグダで固定の意味をなさない」ことを経験します。
綿包帯を巻くことが出来る➡綿包帯を巻くという選択肢を持つことが出来る。
綿包帯を巻くことが出来ない➡伸縮性包帯を巻くしかない。
個人的には、状態に合わせるのはもちろん、各個人の方の生活に合わせることも必要だという認識です。仮に、入浴時に包帯を外して頂くとして、「患者様自身に綿包帯を巻くスキルがないのに」綿包帯を巻く前提で話を進めても回復過程の観点からみれば無意味です。「綿包帯には劣るかもしれない。でも、伸縮包帯の方が患者様ご自身やご家族が巻ける」のならば、伸縮包帯が正解なこともあるでしょう。柔道整復師としては失格かもしれませんが、私は現実に則した判断をしたいと考えている人間です。
私の場合
私は受傷後にシャワーを済ませた後に、(私の触診では骨折はないが靭帯が傷んでいる=捻挫だと判断したため)院に戻り、参考までにエコー検査をして、自分で固定具を作製しました。翌朝にしなかった理由は、
「初めに大げさ位の処置をして、回復に応じて軽くしていった方が遥かに回復が早いから」
です。1週間で(日常の支障がゼロになるものを改善というならば)改善するならば1週間で、3日ならば3日で、サッサと終わらせた方が効率的だし、身体の構造上もその方が理にかなっています。例えば、1か月や2カ月も経ってから、取り戻そうとしても(改善のためのベストなタイミングを既に逃しているので)遅いのです。私は、仕事で手を使わない訳にはいかないので、リスクを承知のうえで夜間のみ、以下の固定具と包帯固定を6日間、昼間の仕事時にはテーピングを5日間しました。
2日目:横ブレの痛みは9割消失も、曲げると痛みあり、曲がらない。
3日目:横ブレの痛みが完全に消失、それ以外の痛みは変わらず。
4日目:指が完全に曲がるようになるも痛みあり。
5日目:同様
6日目:完全に曲げても痛みなし。
私はこのような経過を辿り、今は完全に忘れて生活しています。


私の骨折や脱臼に対する現在の考え
長々と述べた末に矛盾を承知で私の今日の見解を述べます。
「レントゲンを撮ったうえで、必要あれば鎮痛剤の処方下での処置も可能な整形外科に行った方がベター」
だという考えです。
上述のような事情から私は骨折や脱臼を診ることも出来ます。でも、もし私が柔道整復師ではなく医療に携わってもいなかったとして、自分の身近な人が骨折や脱臼が疑われる場合には、間違いなく整形外科を受診して欲しいと思うと想像します。柔道整復師にそれを診ることが出来るスキルがあろうとなかろうとそんなことはどうでもいいと思うでしょう。理由は、明らかに私が行うことに優位性があると私自身が思っていないからです。整形外科の診療時間外やそれに近い状況下では私が診させて頂く方が、ただ時間を浪費するよりも良い場合も現実的にはあると思います。あくまでも、その際には私は自分の持っているスキルを使います・・・というスタンスになります。
追記
2003年の上京後から見習いとして(整形外科勤務以前)、院長一人体制の接骨院にお世話になりました。 つい数ヶ月前まで高校生だった私は、近い立場の先輩がいなかったこともあり、「医学的な助言も出来ないぽっと出の無知な自分が患者様に話し掛けても、失礼なのではないか……」と、挨拶以外は患者様と(院長とも)コミュニケーションが取れずにいました。
当然、資格がないので施術にも入れず、「見て学べ」と言われても何を見たら良いのかすらも分からずにいた1年後。
「お前は、いつになったら患者様と話すんだ??やる気がないなら明日から来なくていい!」
院長にそう伝えられた翌日から、選択肢が消えたことで積極的に話すようになりました。院長の行動を先読みして動き、包帯を解く際には「〇〇さんには包帯を何周巻いているか」「××さんの固定の範囲はどこからどこまでか」など、やっと自主的に学ぶようになりました。
当時の自分が役立たず過ぎて汚点な反面、自分の左手を練習台に包帯を巻く練習を幾度となく繰り返したことが、23年経った今になって役に立つとは……。ケガをしたのに、何だか懐かしく、幸福感を感じた一件でした(笑)。
参考
- 大竹修一 著:『当直でよく診る骨折・脱臼・捻挫:研修医☆万里小路尚子の当直サバイバル日誌』, 南江堂.
- 亀ヶ谷真琴 編, 西須孝 編集協力:『こどもの整形外科疾患の診かた 第2版 — 診断・治療から患者家族への説明まで』, 医学書院.
- 内田淳正, 加藤公 編:『カラー写真でみる!骨折・脱臼・捻挫:画像診断の進め方と整復・固定のコツ (ビジュアル基本手技 2)』, 南江堂.
- 全国柔道整復学校協会 監修:『柔道整復学 理論編』, 南江堂.
- 全国柔道整復学校協会 編:『柔道整復学 実技編』, 南江堂.
- 全国柔道整復学校協会 教科委員会 編:『包帯固定学』, 南江堂.
- 『柔道整復師法』
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