「巻き肩」の誤解と全体を考慮した改善について
「良い姿勢」の指標において、多くの方に関心があるのが「巻き肩」です。
但し、その解釈と改善方法においては「木を見て森を見ず状態」であることが散見されます。
「巻き肩を治す為に他を犠牲にしてしまう方法」は、構造的に何かが違っています。
その為には、体全体のバランスを考慮して三次元で体を考えることが大切です。
個人的には「字を書いたり」「絵を描いたり」というような「全体のバランスを考えて行うこと」が私は非常に苦手です。
「柄澤先生!診察券は私が書きますから、大丈夫です!」
字の下手さはもちろん、バランスを考慮する能力が決定的に欠けているので、昔勤めていた際に普段は天使の様な受付スタッフに言われたり・・・
「なぜ、お前の書いたサッカーゴールは空に浮いているんだ!」
中学時代に書いた校庭の絵では、今でも理解に苦しむ出来なうえに今もなお解決策を見いだせていません(笑)
そんな仕事以外では、立体で考えられない、バランスも考えられない私でも分かるように説明していきます。
この記事は、約2分で読み終えることが出来ます。
目次
「巻き肩」は治るのか?
結論から言うと治ります。
※鎖骨の骨折・脱臼経験のある方は難しいかもしれません。
但し、「巻き肩だからこの方法」のような”浅い”知識で良くなる訳ではありません。
身体を施術するのに専門資格が存在するように、身体はもっと複雑なものです。
まず、「簡単に治る」という認識がある方は“そうではない”ということをご理解下さい。
次項からは、巻き肩を改善する為に「巻き肩についての説明」をしていきます。
巻き肩の程度について

これは、体を「真上から見た状態」です。
このように肩が前に入ってしまった状態を「巻き肩」と言います。
ここで多くの方の認識が異なっているのは、「正常」についての認識です。

多くの方は「肩が前に入っていることが悪い」と認識されています。
しかし、上図を見て下さい。
本来は、「35度」は前に入っているのが正常なのです。
これよりも前に入れば「巻き肩」、後ろに入れば「胸を張りすぎ」ということになります。
当然ながら「正常を逸脱したもの」に関しては、
・四十肩や五十肩の原因
・インピンジメント症候群の原因
・野球肩や水泳・テニスなど手を頭よりも上に挙げる競技において肩を傷める原因
になります。
「巻き肩」と肩以外の部分との関係性

理解して頂くうえで認識して頂きたいの点は
「体は鎖のように、一か所が動けばそれが隣接する部分にも波及し連鎖していく」ことです。
従って、「肩が前に入る」状態についても、肩甲骨付近で原因となり得る部分を挙げただけでも上図の様に
・胸椎
・鎖骨
・胸骨
・肋骨
・腕
の存在が挙げられます。
筋肉は骨と骨とを結ぶ(繋げる)ものなので、挙げた骨の数以上の筋肉が当然ながら関与しています。
<背中側から見た際の位置関係>

これらの中で、最も関係性が高いのが「胸椎」です。

肩甲骨を無くすと以下の図のようになります。

肩甲骨を無くした図から読み取れることは「肩甲骨は肋骨の上に乗っかっている」という点です。
線路の方向にしか電車が進まないのと同様に、肩甲骨も肋骨の形状との関係を無視して位置を変えることは出来ません。
つまり、肋骨を無視して「巻き肩」を正すことは出来ません。
肋骨の形状を変えてしまうもの
背中の骨(胸椎)が前屈み(丸くなる)
→肋骨の形状が変わる
→肩甲骨が前に行く
→巻き肩

このような流れになります。

これらは、自ら試してみれば誰でも分かることであり改めてお伝えすることではないかもしれません。
ここで、私があなたに理解して頂きたいのは、「その順番」です。
・巻き肩を正した結果、背中が起きる(姿勢が正される)×
・背中を起こした結果(姿勢を正して)巻き肩が減る◎
この両者は似ているようで、全く違います。
理由は、冒頭で述べたように「気を見て森を診ず状態ではダメ」だからです。
ダメな理由は前述の通り、肩甲骨が「乗っかっている」だけだからです。
肩甲骨は、他の部分の”言いなり”に過ぎないので、肩甲骨をメインで正すことは中長期的な視点でみると、効果的とは言えません。
胸椎すらも改善対象ではないかも?
「肋骨を正せば巻き肩が治る」
「胸椎を正せば巻き肩が治る」
これらをキャッチーにしていけば商品化ははかれるかもしれません。
しかし、体の構造を学んでいる側からすると「恥ずかしい」です。
なぜなら、時と場合によっては胸椎も”言いなり”に過ぎないかもしれないからです。

上図のように背骨は横から見ると「S字」を呈しています。
細分化すると、
首と腰は前(お腹側)が凸の前カーブ構造です。

胸椎と仙骨(骨盤)は後ろ(背中側)凸の後ろカーブ構造です。

これらのカーブは、「相対的な関係」です。
例えば、前カーブ構造である首や腰の
・前カーブが強くなった(首だと顎が上がった姿勢、腰だと反り腰)
・前カーブが弱まった(首だと猫背、腰だと高齢者のような)
場合には、後ろカーブも変化し得る訳です。
胸椎が丸いから(後ろカーブが強いから)、胸椎を真っすぐにするべきかどうかはまた別問題になります。
また、胸椎が丸い(背中が丸い)のに胸を張ろうとしても辻褄が合わないので、辛く維持出来ません。
また、足の形や足の関節のズレ、立ち方によっても背骨のカーブは影響を受けます。
つまり、足と背骨との関係性も考慮する必要が実際にはあります。

巻き肩を正すには筋肉をほぐす?
これも一般的です。
全く、間違いではありません。
今回は敢えて、骨をメインでお伝えしました。
理由は、骨が理解出来ていないと
・筋肉をほぐすべきか否か
・どの筋肉をほぐすべきか
・どの筋肉をほぐしてはいけないか
が理解出来ないからです。
今回の記事で述べてきたように、
【どこを正すべきなのか】
が分からないと
「どの筋肉をほぐすべきなのか」
も当然分かりません。
ケースバイケースであり、どこが悪いのか見定める術をもたない方に具体的な方法をここで列挙することは、無責任だと考えています。
理由は前述の通り、「将来的な肩を傷める原因を自分自身で作り出してしまう」からです。
その代わりと言っては何ですが、
・どの筋肉をほぐすべき
・どの筋肉をほぐすべきでない
の見極め方についてサラッとお伝えします。

この図は、「巻き肩」の場合を表しています。
「硬い」領域にある筋肉はほぐす。
「弱い」領域にある筋肉はほぐしてはダメ。
ということになります。
鍛えるなら
「硬い」領域にある筋肉は鍛えない。
「弱い」領域にある筋肉は鍛える。
となります。
注意が必要なのは、ここまで伝えてきたような「体全体を考慮したうえで」これを三次元で考えて、三次元で存在している筋肉を考慮して行わないと満足いく効果が出ないし、前述のリスクを伴います。
因みによくある例として
・ご自分で触って「凝っている」事を確認する習慣がある。
・押して痛い部分をほぐすべきと認識をしている。
・凝りをほぐせば問題は解決すると認識をしている。
方は特に「考えずにほぐしてしまう傾向にあるので」注意が必要です。
冒頭にも述べましたが、そんなに単純な話ではありません。
巻き肩と肩甲骨の間の「こり感」について
肩こりの方は巻き肩を、肩こりの方は肩甲骨の間のこり感を感じる場合もあります。

この場合に、「押すと痛気持ちいい」だけを指標に肩甲骨の間を押してしまうことはややリスクがあります。
その部分には、以下の様に「肩甲骨と背骨を結ぶ筋肉」が存在しています。
(大菱形筋・小菱形筋)


この筋肉が縮む=「胸を張る」
この筋肉が伸ばされる=「巻き肩」
のような関係性になります。
つまり、巻き肩の際に「この部分をほぐす事は、巻き肩を助長するリスクがあります。」
補足すると、更にその筋肉以外にも


「肩甲背神経」というものが同部には存在しています。
この神経を辿っていくと、「首から出ている」のがお分かりかと思います。
つまり、「同部に問題が無くても首のせいで同部に症状を感じることもあり得る」ということになります。
・首の変形(頚椎症)
・首のヘルニア
・首のズレ
などが、この原因となり得ます。
こちらに関しても、「肩甲骨の間のこり感」だけを指標にその部分に手を施してしまうと「原因として考えられる巻き肩を悪化」させてしまう可能性があります。
筋肉とこり感・痛みを伝える神経は、当然ながら体の一部なので「順応」します。
強い刺激に慣れるともっと強い刺激でないと心地良さを感じなくなります。
でも、強刺激で筋線維が傷んでいても、感覚が慣れているせいで分からかったとしたら・・・。
筋肉に手を施すことは誰でも可能です。
だからこそ、ご自身で筋肉に手を加える場合には、くれぐれもよく考えて行って下さい。
巻き肩よりも「痛み」の方が大変?
巻き肩をはじめ、肩周辺に対する方法を間違えると前述の様に肩を傷めるリスクが高まります。
肩の疾患は
・改善が年単位になる。
・痛くて眠れない日々がしばらく続く。
・痛み止めが効かない。
・背中が掻けない。
・ズボンが上げられない。
など、診させて頂く側も気の毒になるようなケースも他の部位に比べて多くあります。
従って、自信と覚悟の無い方は、巻き肩や肩甲骨付近に手を施すことは個人的にはお勧めしません。
現状で対価を頂いてご提供している以上、個人的には肩の治療に自信がある方だと思いますが、(当然ながら)奇跡を起こすことは出来ません。
当院では、然るべき期間を一日でも超えず、可能であればその期間を一日でも減らすことに注力しております。
今回、私がこの記事を書いたのは自分の能力を誇示したかったからではありません。
これらのことは、いくつかの医学書から共通項を抽出して体の構造と擦り合わせたら誰だって分かることに過ぎず、私が思い付いた理論でも何でもありません。
「そんな簡単なことすらもしないで、浅はかな方法論だけで無知な方を食い物にしようとしている風潮に対して、私も同類と思われたくない」
との想いから書かせて頂きました。
けど、極論するとそれも「何も伝えられていない」私自身のせいであり、私自身の実力不足に起因するものだと考えています。
この記事はその現状を踏まえて、現状を打破したく書いた記事の1つだとご理解頂けたら幸いです。
ぜひ、今回の記事が皆様の選択するうえでの判断材料の1つとしてお役に立てたら光栄に思います。
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